住まい手は、30代後半の夫婦と子供(姉妹)2人の4人家族。敷地は、浜松駅から北へ車でわずか15分ほど走ると現れる田畑が広がるのどかな景色の一画にある。南側に道路、東側には畑、北側は一段低く位置する田、西側は将来的にも利用価値の低い空地という立地条件での計画となった。
計画地には、この地域特有の冬季の強い北西風をプロテクトするものが全くなく、計画上その「遠州空っ風」を防ぎながらも夏季の気持ちの良い南風をいかに採り込めるかが一つの課題となった。また住まい手からは、「吹抜けを絡めた大空間」と「愛犬との近すぎず遠すぎずの関係が可能な間取り」が要求されていた。
基本構成は、1階にパブリックスペースをまとめ2階にプライベートスペースを確保する計画として進めた。1階のパブリックスペースは、LDK・和室・土間(ペットコーナー)が居間を中心に東西南北に連続し、間仕切り戸を開放させる事で住まい手の要望でもある40帖近い大空間を作りあげる事が出来るようにした。また、動線の中心である居間の大きな吹抜け(6帖程)が2階のピアノホールへと繋がり、更に空間の開放性を高めている。愛犬との関係性は、居間とペットコーナーの間に和室を設けることでLDKに居ながらも愛犬の様子が適度にわかる「少しの距離」を作り出すことが出来た。また、玄関と土間続きとする事で、屋外への出入りをスムーズにし、室内でも共存できるスペースを作り出した。
吹抜けを通して上下で繋がるこの住まいは、上下で公私が分離されているにも関わらず、何処にいても家族・愛犬の気配が感じられる程好い「間(ま)」が造られたと感じている。そして、大きな課題であった「遠州空っ風」対策は、南面を庭・サンデッキに繋がる大開口とし、北西側は通風が確保できる最小限の大きさの開口部とした上で、外気温に影響されにくい水周りを配置する事で解消する事とした。
今回の計画において住まい手の要望に応える事は元より、その土地の持つポテンシャルを引出し、その土地に即した計画をする事が設計者として一番求められる事だと計画を進める中で、改めて気付かされたように思う。また、奇抜なデザインで建物を主張させるのではなく、周囲の風景に馴染むデザインにする事もその地域に即する為の重要な要素であると強く感じた。衣装的な事も含め外部に施した多くの木部が、時間の経過共により風景に溶け込んでくれる事で、「良い雰囲気」を醸し出してくれる事を期待している