敷地は、三方原の合戦で知られる三方原台地の外れにある。周辺には、みかん畑が広がり和な風景が広がるのだが、生憎東側は幹線沿いに建てられたコンビニエンスストアが隣接する。当然24時間人が行き来する為、計画に当たり、隣地からの視線と気配のプロテクトが最重要視される事となった。
全体の構成は、大きく張り出した東南部側に隣地から完全に独立した庭へ広がる開口部のバッファゾーンとしての機能を持たせた。また、その張り出した部分に面する外壁仕上げを地元天竜産の杉板張りにする事で「硬すぎない壁」を作る事とした。
住まい手からは、「子供の為の住まいではなく、自分達の老後の為にこそふさわしい住まい」とし、大きく作りすぎない「ミニマムで使い勝手の良い住まい」が要望として出された。それに答えるべく、夫婦・子供3人で住む27坪強の住まいは、住まい手の合理的な考え方も手伝って一切無駄のないコンパクトな住まいとなった。そのコンパクトな空間の中でも開口部の大きく開く部分と閉じる部分・天井の高い部分と低い部分・・・等、変化を与える事で圧迫感を緩和し、数字以上のゆとりの空間が生まれた。また、地元天竜材と漆喰という100%天然素材が空間に温か味を増してくれている。
10年後、子供達が旅立った後でもこの住まいが、夫婦にとって小さくてもゆとりのある、自然に囲まれた居心地の良い住まいになってくれれば幸いである。