敷地は市街地からさほど離れていない、田畑が一面に広がる市街化調整区域の一角。
海が大好きな住まい手が自らの手で探し出した掘り出し物の土地は、のどかな風景の中にあった。とは言え、作業が出来ない冬季を除いては、田畑に人が行き来する・・・そんなこちらの心配をよそに住まい手からは、「ここを住まいとして選んだ以上、農作業をしている方たちと共存したい!周囲の田畑に向けて大きく広がる気持ちの好い空間が欲しい!」と要望が出された。なんとも自然を愛する住まい手Hさんらしい。
よって、生活の場の構成は上下階で完全に公私を分離し、下階の「共存部」は南側の大きな開口部でサンデッキ・庭・畑へと繋がりを持たせ、周囲の景色を採りこめるように配慮した。上階に浴室・洗面室を配する事に最初は難色を示したHさんも自身の生活リズムを再認識し、最終的には当方の提案で快諾してくれた。また、上階に浴室を設けることは、外部の干渉からの過剰な防御が不必要な為、浴室からも田畑の緑を臨む事ができる開口部が確保できる。Hさんにとって、その開口部は上階に浴室を設ける大きな決め手になったようだ。
住まい手の努力により田畑の緑の中に生まれた小さなこの住まいは、年を重ねる度に地域と程好く共存していってくれるのだと思う。