従来は「リフォーム」と言われていた行為が、「リノベーション」という言葉に変わり、
ここ数年で一般的なものとして定着してきました。
更地に建てる新築とは違い、既存の建物を活かしながら住まいを整える手法の
一つの選択肢として認識されているように思います。
しかし、リノベーションを単なる「新しくする行為」として捉えるのは、
少し違うのではないでしょうか。
既存の建物には、それまでの時間が確かに積み重なっています。
そこで過ごしてきた暮らしや、使われ方の痕跡。
光の入り方や、風の抜け方。
見える景色や、その場の居心地。
そういったものは、図面だけでは読み取れない、その場所固有の“気配”のようなものです。

「リノベーション」とは、それらを一度受け止めた上で、これからの暮らしにどうつなげていくか、
どう整えていくかを考える行為だと思います。
すべてを新しく整えてしまうことは、ある意味では簡単です。
性能を高め、見た目を整え、現在の基準に合わせることも可能です。
しかし、それによってこれまで積み重なってきたものまで失われてしまうとすれば、
それは本当に豊かな住まいと言えるでしょうか。
新しくすることと、活かすこと。そのバランスは、常に問われるべきものだと感じます。

また、「リノベーション」は制約の中で考える設計でもあります。
構造や寸法、既存の配置。思い通りにいかないことも多くあります。
しかし、その制約があるからこそ、見えてくる可能性もあります。
光の取り入れ方を少し変えることで、空間の印象が大きく変わることもありますし、
残すことでしか生まれない落ち着きもあります。
すべてを自由に決められる新築とは違い、与えられた条件の中で、
どのように暮らしを整えていくのか。
そこに、リノベーションの面白さがあるように思います。

改めて、「リノベーション」とは、古いものを新しくすることではなく、
これまでの時間と、これからの暮らしをつなぐこと。
過去を否定するのではなく、その中にある価値を見つけ直し、
今の暮らしにふさわしいかたちへと整えていくこと。
「設計」とは、その関係性を丁寧に編み直す作業なのだと考えています。
