生まれ育った実家を離れ、新たな土地で新居を設け生活する核家族が増える昨今。
その中でも、利便さだけを求めて市街地の小さな敷地を手にするよりも
少しの不便とゆとりある空間を求めて市街地より少し離れた通勤圏内で
土地を求める人が若干増えてきた気がします。
そんな中で、10年位前からでしょうか?
『平屋』のニーズが増えてきています。
そんな中、皆さんがイメージする『平屋』のイメージとは…
・予算にゆとりがないと建てられない
・敷地が大きくないと建てられない
・ベランダが無いので布団干しに困る
その他にもたくさんあると思いますが、上二つの印象が強すぎて
初めから断念する方が殆どではないでしょうか。
私は、決して昨今の流行で『平屋』が良いと感じているわけではなく、
当事務所では、開業当時から可能な範囲で『平屋』をお勧めしております。
それでは、何故『平屋』良いのか?
最大の利点は、階段がないという事です。
そんな事はどなたでもわかると思いますが、この階段の有無により
動線が大きく変わることは当然で、それにより間取りにも大きく影響を及ぼすという事です。
若い時や健康な時は、気にもせずに昇降する階段も年齢を重ねるにつれ、
昇降が辛くなり、子供が巣立ち家族が減った時には、二階へ全く上がらなった
なんて事はよく聞く話です。
また、子育て世代でも大きな影響はあります。
階段を介して上下階の空間が分断されることにより、
家族間でのお互いの気配を感じられなくなるという事です。
では、何故皆さん平屋にしないのか?
理由はたくさんありますが、やはり一番大きな問題は、
先に上げた上位二つの問題が諦める大きな要因です。
この大きな課題の解決策や対応策、もっと言えば根本的思考の変換について出来ないでしょうか?
そもそもこの二つの課題は、違う課題であるようにみえますが、
共通して解決できる部分が多く存在します。
先ず一つ目は、間取りを合理的にし、コンパクトにまとめる事です。
昨今の間取りは、一昔前のそれとは大きく異なり、
住まい手の生活スタイルが優先される間取りとなってきています。
その事で、客動線と生活動線を分断する「廊下」という概念が無くなりつつあります。
廊下が無くなれば、パブリックスペースからプライベートスペースへの直接的な動線となり、
より動線同士の干渉に注意しなければならなくなりますが、
不要になった「廊下」の分だけ大幅な面積減となり、予算もコンパクトになります。
間取りをコンパクトにできる要素は他にもたくさんありますので、上記はあくまで一例です。
二つ目は、小さな空間を大きく感じる事ができるような仕掛けをする事です。
部屋の大きさを数字(何帖や何㎡)でばかり気にしていると、器はどんどん大きくなるばかりです。
また、それに伴って視覚や心にゆとりのある空間が出来るかというとそれは違います。
人が感じる広さの感覚は千差万別ですが、数字(何帖や何㎡)で空間の広さを感じる事はありません。
全ては五感で感じるものなのです。
その中でも「視覚」の影響は大きく、また錯覚しやすいのも「視覚」だと思います。
その「視覚」を操作する仕掛けをする事が出来るのが「設計のプロ」の筈です。
間取り作成は、色々な知識とノウハウを持つ「設計のプロ」にお願いしましょう。
三つ目は、土地の価格を抑える事です。
殆どの方々は土地選びの時に日当たりの良い南面道路沿いや整形な土地を最優先で選ぶことでしょう。
そういった条件の土地は、他に比べ人気も高い為、価格も高く、値引きもない事が多いです。
その為、土地に予算を喰われ、建物が希望通りにいかないなんて事はよく聞く話です。
しかし、生活している状況を想像してみてください。
南側に大きな庭があって、植栽で緩衝帯でも作られていない限り、南側道路からは丸見えであったり、
リビングから見える景色は、ご自身の車のお尻であったり、洗濯物だったりしませんか?
一日中、レースのカーテンをしている様では、日当たりの良い開放的な生活とは程遠い気がしますが…
確かに資産価値という視点では、南面道路沿いで整形な土地に勝るものはありませんが、
生活する為の土地という視点では、北面道路沿いだろうが、変形土地や旗竿土地であろうが、
その土地のポテンシャルさえ引き出すことができる住まいづくりができれば、
低価格・低人気の土地も高価格・高人気の土地を逆転する可能性を十分に秘めています。
だからこそ、土地選びから「不動産のプロ」ではなく、
「設計のプロ」にアドバイスをもらうことが重要になります。
最後に、便利さだけを優先しない事です。
特に設備機器に関しては、最先端技術により、オートメーション化が進み、便利になっています。
しかし、それに伴い設備機器にかける予算も上がり、全体の予算を圧迫しているのも事実です。
また、便利機能が多くなった分だけ故障も多くなり、メンテナンスにかかる費用も増幅してきます。
例えば、
・便器の自動洗浄機能が故障した為に、子供が用を済ませた後に流すことが出来なかった
・自動吐水水栓のセンサーが故障して、手洗が出来なかった…等
ほんの一例ですが、そういった便利さの追求による不便さも、後々感じる事になる筈です。
ストレスを感じずに使えるように選定したものが、逆にストレスになるなんて事がないように
設備機器選定には、根本的な思考から変えた方が良い気がします。
住まいづくりで、予算も希望もなんでもかんでも全部満たす事は可能ですが、
計画費用が膨らみ、その事でオーバーローンで生活が苦しいなんて本末転倒です。
お金のかけ方は、人それぞれですので、正解はありませんが、
「平屋のすまい」を実現する事が、老後までの安定した生活を生むのであれば、
多角的に物事を捉えて、コストコントロールする事で
「平屋のすまい」を実現してみては如何でしょうか?